はじめて通る近所の道

2019.06.24

通ったことのない路地をはじめて歩いた。20年以上住んでいる近所の道だ。いつもは表の少し広い道を通るのだ。買い物帰りのちょっとした気まぐれだった。

俺には昔からそういうところがある。近場で遠くを感じて楽しむのだ。習慣や環境の変化に人一倍臆病だから、それをほんのちょっと変えれば小旅行気分が味わえる。

古い民家に挟まれた狭い路地だった。アスファルトが何度も剥がされては補修されていた。微かに下水の臭いがした。新鮮な気分が萎える前に路地は終わりそうだった。

そのとき、上の方で物音がした。さっき通り過ぎた民家の二階らしかった。アルミの鍋底をお玉で叩くような音だった。それは急かすようならズムでしばらく続いた。振り返って見上げようかと思ったが、できなかった。なぜか、音の主がよくすれ違うばばあのような気がしたからだ。おれは急に不安になって、足早に路地を出た。

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